大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和38年(オ)1238号 判決 1964年4月03日

上告人

日本海工株式会社

右代表者代表取締役

村上栄次郎

右訴訟代理人弁護士

磯田亮一郎

藤井宏

被上告人

北野達郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人磯田亮一郎、同藤井宏の上告理由第一について。

本件記録によれば、原審第三回口頭弁論期日において、控訴人(上告人)訴訟代理人は、その主張する抗弁事実立証のため、証人山下義一および控訴会社代表者村上栄次郎の尋問を申請し、原審は、右証拠取り調べのため次回期日を指定したのであるが、第四回口頭弁論期日には、右証人および控訴会社代表者が適式の呼出を受けたのに出頭しなかつたので、右期日には何らの証拠調が行なわれることなく右証人および代表者本人再呼出のため次回期日の指定となり、ついで第五回口頭弁論期日には、右証人および控訴会社代表者本人のみならず、控訴人訴訟代理人磯田亮一郎、同藤井宏も適式の期日告知があるのに出頭せず、その不出頭の理由を釈明した何らの書面の提出もなかつたので、原審は前記証人および代表者本人尋問の採用を取り消し、口頭弁論を終結した。なお、口頭弁論終結後も控訴人より口頭弁論の再開を促す旨の書面が提出されなかつた。以上の事実が認められる。

右の場合において、たとえ控訴人申請の前記証拠がその抗弁事実立証のための唯一の証拠であるとしても、これを取り調べなかつた原審の訴訟指揮をもつて民訴法第二五九条の証拠採否の裁量の範囲を逸脱した違法があるということはできない。論旨は採用できない。

同第二について(省略)

よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官奥野健一 裁判官山田作之助 城戸芳彦 石田和外)

上告代理人磯田亮一郎、同藤井宏の上告理由

第一、原判決には重要な訴訟手続の違背がある。

原判決によれば「当事者双方の主張並びに証拠の提出、援用、認否は控訴代理人において「被控訴人が本件約束手形の所持人であることは争わないが、同手形は、その受取人である訴外吉田建設工業所の社員と称する者が、同手形の振出日ごろ、控訴人会社内で、これを詐取したものであつて控訴人の意思に基かないで流通におかれたものである。」と述べたほかは、いずれも原判決摘示と同一であるからここにこれを引用する」ということであるが、上告人は昭和三八年一月二八日原審において上告人の抗弁事実立証のため証人山下義一および上告人代表取締役村上栄次郎の両名の尋問を申し出たものである。しかして上告人の右申請にかかる人証は、第一審および原審を通じて上告人が申し出た唯一の証拠であつたが、原審はこれが取調べをしないで結審し、被上告人主張通りの判決を言渡したものである。しかるに右証拠申出は不適法でも、争点の判断に不必要または不適切なものでもなくもちろん時期に後れたものでもなく或いは証人等が正当の事由なく期日に欠席したのでもなく、当事者が故意に訴訟の引延ばしを図つているものでもなく、はたまた証拠調に不定期間の障碍がある場合にもあたらない。なぜなら当初証拠調期日と指定された昭和三八年四月一〇日にはたまたま前記証人等が、上告会社の名古屋工場に突発事故が発生、急遽同工場に出赴いたため出廷できずそこで更めて、同年七月一日に新期日が指定されたところ、そのころ当事者間に示談が進行中であつたため、原審における被上告人代理人の同意を得て、新期日を変更するべくこの旨原審裁判所に念達したのであるが、原審裁判所は本件を結審し、判決の言渡をしたものだからである。ところで判例によると当事者の申し出た唯一の証拠は、その申出が不適法法なときまたは争点の判断に不必要又は不適切なとき等を除き、必ず取り調べるべきで、これを却下するのは違法であるとなし(例えば大審院明治三三年六月三〇日判決、民録六輯六巻一七六頁)、これを取り調べないでその主張を排斥するのは、双方審尋の要請に反し、公平を欠く裁判として重要な訴訟手続に違反するものとする(例えば大審院明治四一年六月一六日判決民録一四輯七二九頁)。してみれば、上告人の申し出た唯一の証拠を取り調べないで、その主張を排斥した原判決は、双方審尋の要請に反し、公平を欠く裁判として重要な訴訟手続に違反するものであるから到底破毀を免れないものと思料する。

第二、(省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例